人事データの棚卸し——要員計画を始める前の前提整備
要員計画を作ろうとしても、HRテックを導入しようとしても、最初に手が止まるのはたいてい同じ場所です。データです。計画の前提となる現状のデータが揃っていない、汚れている、そもそもどこにあるか分からない。ここで多くのプロジェクトが想定外の時間を食います。
この記事では、人事として16年、採用・評価・労務・組織設計に関わり、Workday や ServiceNow の全社導入でデータ移行を完遂した立場から、人事データによくある「汚れ」のパターンと、現実的な棚卸しの進め方を整理します。
なぜデータで躓くのか
要員計画も、システム導入も、綺麗なデータがあることを暗黙の前提にして設計されています。しかし実際の人事データは、長い年月のあいだに複数の担当者・複数のシステム・複数のExcelを経由して溜まったもので、綺麗であるほうが例外です。
デモ環境のサンプルデータは整っているので、計画段階では問題が見えません。いざ自社の実データを入れた瞬間に、コードが合わない、名寄せができない、履歴が欠けている、と次々に判明します。データの状態を直視しないまま進めると、後工程で必ずしわ寄せが来ます。
よくある「汚れ」のパターン
1. 組織コード体系の不統一
同じ「営業部」が、システムAではSALES、システムBでは0301、Excelでは「営業本部第一営業部」と表記されている。部門の統廃合を経て、廃止されたはずのコードが一部の履歴に残っている。こうした不統一があると、部門をまたいだ集計そのものが成立しません。
組織コードは一見地味ですが、要員計画のあらゆる集計の軸になります。ここがずれていると、その上に載せる計画も配置も全部ずれます。
2. スキル・能力情報の分散と不在
資格は労務のシステム、評価コメントは評価シート、研修履歴はLMS、実務経験は各部署の頭の中——スキルに関する情報は、社内で最も分散しがちなデータです。しかも多くの場合、そもそも構造化された形では存在していません。
要員計画をCapability起点で考えようとすると、まさにこのスキル情報が要になります。しかし現実には「誰が何をできるか」が一元化されていないことが多く、ここが整備の壁になります。スキル情報を集めても定着しない構造についてはスキルマップが3ヶ月で放置される理由と、続く設計で書いています。
3. 履歴の欠損
現在の所属や役職は分かっても、「いつ、どこから、どういう理由で異動してきたか」という履歴が欠けているパターンです。休職・復職、出向、兼務の開始と終了。こうした時系列の情報が紙にしかない、あるいはどこにも残っていない。
履歴が欠けていると、退職リスクの分析や、異動と定着の関係といった、少し踏み込んだ分析ができません。現在値だけのデータは「今」を写せても「動き」を語れないのです。
4. 名寄せができない
同姓同名、旧姓と新姓、システムごとに異なる社員番号。人を一意に特定できないと、複数のシステムのデータを突き合わせることができません。データ統合の工数の多くは、この名寄せに消えます。
全部綺麗にしてから、は失敗する
こうした汚れを前にすると、「まずデータを全部綺麗にしてから計画やシステムに進もう」と考えたくなります。しかしこのアプローチは、たいてい途中で力尽きます。人事データの汚れは膨大で、全件を完璧にする作業には終わりが見えないからです。
現実的なのは、用途起点で優先順位をつけることです。何のためにそのデータを使うのかを先に決め、その用途に必要な範囲から順に整えていく。
用途起点の進め方
- 何に使うかを先に決める — 来期の要員計画を作るのか、システムに移行するのか。ゴールによって必要なデータの範囲と粒度が変わる
- その用途に効くデータから着手する — たとえば要員計画なら、まず組織コードと現有人員の整合。全項目を一斉に触らない
- 完璧ではなく「使える状態」を目指す — 90点を全件でなく、要のデータで実用に足る水準を先に確保する
- 汚れを記録して先送りを可視化する — 今回手をつけない汚れは「未整備リスト」として残す。放置ではなく、意図的な先送りにする
この進め方は、要員計画をExcelから始める段取りとも重なります。ツールを入れる前の準備については要員計画ツールを入れる前にExcelでやるべき3ステップも参考になります。
棚卸しは一度きりの作業ではない
もう一つ大事なのは、棚卸しは一度やって終わりではないということです。組織は動き続け、人も動き続けるので、データは放っておくとまた汚れます。
だからこそ、用途起点で「使える状態」を作りつつ、そのデータが自然に更新され続ける運用まで含めて設計するのが理想です。入力が現場の業務の中で発生し、それが計画に反映される。この循環がないと、棚卸しは何度でも繰り返す消耗戦になります。
まとめ
- 要員計画もシステム導入も、最初に躓くのはデータ。綺麗なデータは前提にできない
- よくある汚れは、組織コードの不統一・スキル情報の分散と不在・履歴の欠損・名寄せ不能の4パターン
- 「全部綺麗にしてから」は力尽きる。用途を先に決め、その用途に効くデータから「使える状態」を作る
- 棚卸しは一度きりではない。データが自然に更新され続ける運用まで含めて設計する
私は現在、Capability起点の要員計画・実行管理SaaS(Sakigake Workforce)を複業で開発しています。要員計画やシステム導入の前提となるデータ整備で悩んでいる方は、下の窓口からお気軽にご相談ください。「導入する側」を16年やった立場で、現場の言葉で一緒に整理します。
Sakigake Workforce
Capability起点の要員計画・実行管理SaaSを開発しています。要員計画の運用にお悩みの方は、30分のオンライン相談で現場の言葉から一緒に整理します。